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旧国鉄 豊後森機関庫 No.02
調査報告書一覧 > 報告書 No.01 / No.02

調査実施:2005年2月・10月 報告書作成:2005年11月3日
       

久大本線の開通と豊後森駅

久大本線は明治39年に、大分県玖珠郡会にて「(福岡県)久留米、大分間に鉄道を」と提案された。しかし、請願書を提出しに上京すると、時の鉄道院総裁後藤新平は「あの山の中に鉄道は必要ない。君らはサルでも乗せる気か」と言ったという。今なら大問題になるだろうが、昔の話とはいえ酷い話だ。それでも根気よく鉄道敷設の陳情は続けられ、大正8年に衆議院を満場一致で通過し、貴族院本会議も可決された。それによって鉄道省は大正11年に、大分〜湯平を結ぶ大湯鉄道を買収し、これを基礎として久大線の建設を開始する。部分的に鉄道が開通していく中、豊後森駅が開業したのは昭和4年の12月のことだ。豊後森駅は当時の森町に作られたので駅名は「森駅」でもいいはずだが、すでに函館本線でこの名称が使用されていた為、旧国名を頭につけて「豊後森駅」となった。昭和9年の12月に天瀬〜日田間が開通し、久留米から大分市までが全線開通することになり、現在の久大本線が完成された。
    

250人が働く豊後森機関庫

 昭和4年の豊後森駅が開業した時点では、機関区を日田駅に置くか豊後森駅に置くかで随分ともめたらしいが、昭和4年に豊後森駅に決定。理由としては久大線のほぼ中央に豊後森駅があったこと、広い敷地が確保しやすかったことに加え、蒸気機関車の運行で必要不可欠な“水”が確保しやすかったことも言われている。また明治29年からあった森(現・大分県玖珠町)〜隈府(現・熊本県菊池市)線の計画(後の宮原線)の存在も、豊後森に機関庫を置いた理由として考えられる。宮原線は昭和12年に久大線の恵良駅から宝泉寺まで開通、一旦戦争でレールなどを供出したため廃止になったりするも、昭和29年には肥後小国まで開通する(昭和59年廃止)。起点は久大線の恵良駅だが、列車は隣の豊後森駅の機関庫から出ていた。今年(2005年)の8月に惜しまれながらも老朽化の為に引退となったSLあそBOY(8620形機関車・大正11年製造)も、この豊後森機関庫から肥後小国まで宮原線を走っていた時期があったそうだ。
 機関庫は蒸気機関車の収容・管理を行うだけでなく、水や燃料その他物資などの補給や中継地として重要な役割を持っていた。そのため戦時中には格好の標的になり、米軍戦闘機の機銃掃射を受けている。多くの資料に「明り取り窓付近にその弾痕を残す」とあるのだが、私が探してみた限りでは見つけることができなかった。
 昭和23年頃、最盛期の豊後森機関庫には蒸気機関車は25両もあり、また従業員は250人を超え、一日の乗降客は5000人以上いたという。しかし昭和46年に、久大本線で全ての蒸気機関車がディーゼル機関車に置き換わったのを機に、この豊後森機関庫は廃止になった。現在機関庫周辺は何もない空き地だが、当時の写真などを見ると周辺にも多くの建物が建っており、活気に満ち溢れている。国土交通省のウェブマッピングシステムで「昭和51年の豊後森駅周辺の航空写真」を見ることができ、廃止後5年経っても周辺に建物が多数残っているのを確認できる。
 

  
  
  
  
  

 現在、機関庫は近くまで行くことはできるものの、窓ガラスが割れて周辺へ飛散しているため大変危険な状態だ。そのため転車台付近よりロープが張られて立入禁止になっており建物内部へも入ることはできない。この報告書では立入禁止区域内や建物内に入って撮影したカットがあるが、いずれもJR九州の許可のもと撮影を行っている。

 
実を結ぶ保存運動

 現在はJR九州の所有になっている機関庫だが、機関庫保存の観点から近く玖珠町が買い取ることになったらしい。これは地元の日田・玖珠地域の有志で構成される豊後森機関庫保存委員会が、ボランティアによる地道な保存署名や募金活動を行い、町にはたらきかけた結果のようだ。扇形機関庫は全国的にも現存するものは珍しい。ましてや転車台とセットで残っているのは非常にまれだそうだ。この豊後森以外では、京都の梅小路機関庫が蒸気機関車の博物館として有名だ。そのため玖珠町も機関庫を国の有形文化財に登録し、地域振興に役立てたいと期待している。近年、その価値が認められながらも取り壊されていく産業遺産が多い中、この豊後森機関庫は地元の人々と自治体、所有者である企業の考えが一致して保存への道を歩みだした良い例だと思う。保存に向けてはスタートラインに立ったばかりだ。今後は補修・整備され「活用」されていくことになるだろう。これからどう活用されていくかが楽しみだ。
 

 

 

参考文献
■「玖珠町史 中巻」玖珠町史編纂委員会/編 2001年
■「ふるさと玖珠の歴史」ふるさと玖珠の歴史刊行委員会/編 1998年
■「日本の戦争遺跡」戦争遺跡保存全国ネットワーク/編著 2004年
■「九州 鉄道の記憶」宇都宮照信/編 2002年
■「九州 鉄道の記憶V」宇都宮照信/編 2004年
■大分合同新聞Webサイト「ニュース2005年3月24日の記事」(大分合同新聞


この報告書を作成するにあたり、ご理解・ご協力頂いた皆様に深く感謝申し上げます。