長崎県佐世保市のハウステンボス(テーマパーク)近くに、3本の巨大な塔がそびえ建っています。遠くからでも目立つその塔は、旧日本海軍が大正11年に建造した無線送信所のアンテナの一部です。
3本の塔は鉄筋コンクリート造で、高さが135〜137mにもなり、約300mの間隔で正三角形に配置されています。当時はそれぞれの塔の先端を、アンテナになるケーブルが結んでいました。現在、長距離通信には人工衛星などが利用できますが、当時の長距離通信は長波を利用したものでした。長波は文字通りに波長が大変長い(数百m〜数km)ためにアンテナも巨大なものが必要で、このような施設が造られたわけです。
現在これらの3本の塔の中心には、佐世保海上保安部の送信所があります。戦後の一時期にはこの無線塔も海上保安部で使用されていたようですが、現在は使用されていません。3本とも畑などの中にあるようで、うち1本には「無線塔→」と書かれた小さな手作りの看板のおかげで簡単に根元までたどり着くことができました。
130数mを支える根元の部分の直径は12m。遠くからみると電柱と大して変わらないようにも思えますがさすがに太いです。真下から塔を見上ると、どんな形の建物かよくわかりません(笑)。ところで近くまで行って驚かされることがあります。コンクリートの表面がとても美しく、ヒビの一つも見つけることができないのです。表面のきめも細かく、とても大正11年に造られたようには感じられません。表面に型枠の板の跡が残っていますが、大変滑らかな仕上がりになっているのが写真でも分かると思います。所々にある四角い穴は、塔に数箇所ある明り取りの窓のようです。塔の内部は空洞になっており、メンテナンス用のための梯子があります。130mの梯子とは考えただけでもゾッとしますね。
この針尾送信所は太平洋戦争開戦の出撃命令である「ニイタカヤマノボレ」を発信した送信所のひとつとも言われています。単に大正期の鉄筋コンクリート建築物としてだけでなく、歴史的な戦争遺産としても考えられるこの送信塔ですが、現在佐世保市では保存か解体かで議論が交わされているそうです。 |