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坂本隧道・旧西日本製紙株式会社工場跡 No.03完
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調査実施:2005年3月 報告書作成:2005年5月21日
       

 今は何一つ残っていないように見える更地だが、注意してみると色々と遺構が残っているものである。
 まず、存在感ナンバーワンの遺構が、この「坂本隧道」である。この工場では増産に伴う輸送力強化のため、昭和27年に国鉄肥薩線の坂本駅より全長1,441mの専用の引込み線を完成させた。その専用側線の途中に坂本隧道も作られたが、地質が悪かったのか建設中に2回の落盤と坑門付近での土砂崩れに見舞われる難工事だったそうだ。専用引込み線は原料の木材の搬入や製品の出荷で活躍したが、国鉄の貨物輸送合理化とトラック輸送への切り替えにより、昭和58年に廃線となる。廃線に伴い、工場側坑門前の部分を大きく削りトラックが道路に降りれるよう改造が行われた。
 
 
 
 このトンネルの工場跡地側の入口には「立ち入り禁止」の規制がある。そこで現在の管理者にトンネル内の立ち入りと写真撮影の許可の申し入れをしてみた。しかし、ほんの数日前にトンネル入り口付近で大規模に崩落が発生し、非常に危険な為に立ち入りを許可することは出来ないという事だった。実際に外からトンネル内を見ると崩れたであろう岩を見ることができる。崩落の事実を知らされたら、例え許可されてもこれでは内部には入れない(汗)。ちなみにこの申し入れをしたときに、対応された方からはじめに「鉄道マニアの方ですか?」と聞かれた。なんでも、このトンネルについて「鉄道マニア」からの問い合わせはよくあるそうである。
 
 
 さて、話を坂本隧道に戻そう。このトンネルの坑門の形状は工場側と坂本駅側とではご覧のように異なる。坂本駅側の坑門は単線に見られる一般的な馬蹄形の坑門だが、工場側は複線サイズに近い坑門だ。これは工場側坑門付近のトンネル内に線路の切替ポイントが設けてある為で、途中でトンネルの直径が変わっているのである。トンネル内で坑径が変わるという点とトンネル内に切替ポイントを持っていたという点を考えると、一企業の専用引込み線としては非常に珍しいのではないかと思われる。鉄道マニアの方、どうだろう?
 
 

参考文献
■「日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2000選」土木学会土木史研究委員会/編 2001年
■「紙漉きの渓 坂本工場の軌跡」西日本製紙株式会社/編 1988年
■「坂本村史」坂本村村史編纂委員会/編 1990年
■「熊本県文化財調査報告第182集 熊本県の近代化遺産」熊本県教育委員会/編 1999年


この報告書を作成するにあたり、ご協力頂いた方々に深く感謝申し上げます。