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白川発電所 No.01
調査報告書一覧 > 報告書 No.01 / No.02

調査実施:2005年12月 報告書作成:2006年7月6日
       

 当サイトでは“跡”だとか“廃”などが付く物件を紹介しているが、今回は現役の産業施設を紹介したい。なお当報告書の前に報告書「日窒鏡工場・小千代橋」を読んで頂くことをオススメする。

概要

 今回紹介する白川発電所は、日本窒素肥料株式会社(現・チッソ株式会社)が熊本県鏡町(現・八代市)に建設した日窒鏡工場に電力を供給することを目的として建てたものだ。鏡工場の建設開始と同じ大正元年12月に準備工事に取り掛かり、本工事は大正2年4月からスタートしている。建設工事は急ピッチに進められ、鏡工場の完成から10カ月遅れの大正3年の11月に竣工し送電を開始した。

 建設されたのは熊本県阿蘇郡錦野村(現・熊本県大津町)の白川の左岸で、鏡町とは直線距離でも50km近く離れている場所。阿蘇のカルデラが唯一途切れている所で、カルデラ内を源とする黒川・白川が一つの流れになり深い谷を形成している。そのような地形なので、カルデラの内外で黒川・白川の落差を利用しやすく水力発電所の建設には向いている立地なのだろう。すぐ上流の対岸には大正3年に熊本電気株式会社(現・九州電力)によって建設された黒川発電所があり、これもまた現役だ。
  

   

 

調査

きっかけ

 私がこの発電所に強く興味を持ったのは、大正時代にだけ存在した日窒鏡工場について調べたのが大きなきっかけとなった。日窒鏡工場の跡地は現在「郷開工業団地」となり、その痕跡を区画として留めているだけで、目立つ遺構は発見できなかった。しかし付随する施設として作られた白川発電所は、現在でも現役の施設として残っている。実は少し前から存在だけは知っていて気にはなっていた。土木学会が発行している「日本の近代土木遺産」という本で、その中のリストに「チッソ・大正3年・煉瓦建屋・円窓付きゲーブル」と紹介されているのを、少し前に読んでいたのだ。ちょうど私が深水発電所の報告書を書いていた時期でもあり、「熊本に他にも古い煉瓦の発電所建屋があるのか!」と、興味をそそられていたのだ。

まずは現地へ…

 大正時代の煉瓦の発電所建屋ということで、まだ見ぬその姿に期待が高まる。ある日、近くを通ることがあったので、その外観だけでも見ようと地図を手に白川発電所へ向かった。白川発電所の対岸には熊本市から阿蘇・大分へと抜ける国道57号が通っている。その国道を走ると対岸の山の斜面に水力発電所の導水管が見えてくる。地図には小さな橋が発電所へ続いているので白川右岸から発電所にはアクセスできるものと思い、国道から狭い農道を伝って白川の川べりまで辿りついたが結果はNG。なんと地図にはある橋が、橋台を残すのみとなっており道が途切れてしまっている。そればかりか、対岸からは白川発電所の建物すら木々が邪魔をしてよく見えないのだ。もちろん国道からは導水管は見えるものの発電所は更に谷底にあるために全くみえない。狭い道を下り、なんとか谷底まで降りてその煉瓦の建屋の一部がチラチラ見えるだけだ。
 

  

 
 結局その日はたどり着けず、後日に白川左岸下流にある集落から続く1本の林道を見つけて、やっとその姿を目にすることができた。まず驚いたのが、その鮮やかな煉瓦の色と建物の大きさ。加えて、この様な大きな煉瓦建築物が、周囲から全く見えない谷底にひっそりと建っているということだ。現在この白川発電所は大きな木々に囲まれ、このように間近でなければ全体像をハッキリ見ることができない。これって正に“隠れたお宝”的な建築物ではないだろうか。私自身よく国道57号線を通るのだが、すぐ近くの谷底にこのような大型の煉瓦建築物があるとは、とても意外だった。
 

 
 さて、おちついて建物をよく見てみよう。といってもフェンスの外からだが、建物自体はよく見ることができる。まず目を引くのがゲーブルの円窓だ。明治41年に作られた曽木発電所のそれとよく似ているとも思ったが、こうして見比べてみると階段状の飾りや円窓の縁の凹凸など結構違いがみられる。同じ会社の同じ煉瓦の発電所ということで似ていてもおかしくはないが、僅かな違いがあるのが面白い。
 
    
 
 建物全体に目を向けると、煉瓦が鮮やかに発色しているように見えるが、これは何か表面処理が施されているように思う。また全ての窓をよく見ると、アルミサッシに取り替えられているようだ。しかしブロンズ系の色のサッシを使ってあるため、全体の雰囲気を壊してはいない。
 入口ゲート左手には小さな木造の事務所のような建物があるが、これも細部の作りをみると結構な古さを感じさせる。ただし昭和12年発行の「日本窒素肥料事業大觀」に掲載されている白川発電所の写真には写っていないので、それ以降の建物ということになるようだ。
 
  
 

 煉瓦造りの建物だけでも十分に興味を引かれる物件だが、水力発電所は取水口から導水経路などを合わせて見てみるとその面白さは更に増す。現代でも大工事になるであろう導水トンネルなどの土木工事を、機械化もろくに進んでいない時代に行われた苦労を考えると、更に興味深く見ることができると思う。とはいえ、ここは“現役”の発電所。勝手に施設内を見て回ることなどできない。そこでチッソ株式会社に取材の申し込みをしたところ、今回特別に内部と関連設備の見学の許可が下りた。詳細は次回!

 

 

 

次回、白川発電所の全容公開!
つづく