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内大臣森林鉄道・鴨猪谷支線 No.03
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調査実施:2005年7月 報告書作成:2005年8月10日
       

現地調査(第3回・本調査)

 前回、分岐点からスタートした調査は、トンネルを2つ、ガーター橋を2つ発見するという大きな収穫があったものの、およそ600mほど進んだ地点で大規模な路盤崩落によりその行く手を絶たれてしまった。そこで今回(第3回調査)は第2回調査の元々の目標地点であった合流部から逆行して、前回の路盤崩落地点を目指すルートを取り、この林道未転用区間の全容を解明したい。今回の調査のスタート地点となる合流部は、県道153号から繋がる林道によって簡単にアクセスできる。ちなみにこの林道の合流部から源流部の穴谷付近までの区間は、軌道跡を林道に転用したものになっている。
 


ポインタを重ねると重描きの線(軌道跡)を非表示にでき、本来の状態を表示します
 
鴨猪川と林道

 県道153号より鴨猪川に沿った林道に入る。鴨猪川も内大臣川と同じく、緑川の支流のひとつで美しい渓流だ。この鴨猪川に沿うようにして続く林道は、進むにつれどんどん標高を稼いでいき、標高1300〜1500mのピークが連なる尾根の間近まで迫る。林道は尾根まで到達しているようにも思われるが、尾根が間近に見える地点で大規模に路盤が崩落しており、実質その地点で終点となる。なお、地図では林道の最終地点は穴谷周辺になっているが、実際の林道は穴谷付近から北上して遠見山(地図右上)の方角に延びている。

合流部

 地図によれば林道が鴨猪川を渡ると、まもなく右後に分かれて伸びる軌道跡があるはずだ。ところが実際はこのようにハッキリとした「車道」として分かれており、周辺には特に迷うような痕跡もない。「あれれ?こっち側は林道化されているのか?」と思いながらも合流部からスタートだ。角上橋周辺の分岐点の状況から、こちら側の合流部も“藪化”した入口だとばかり思っていたので少々拍子抜だ。
 


地図をクリックすると別窓で表示できます。
   
 

軌道跡の痕跡現る

 林道としては十分な道幅で、路面もしっかりしている。はたして軌道跡なのか不安になるほど快適だ。しばらく進むと右手に大きく展望が開けてくる。その地点で砂利の路面に枕木が現れた。やっと軌道跡である確たる証拠が出てきたホッとした。やはりこのルートで間違いはない。しかし徐々に勢いを増す路面中央の雑草が、この先「車道」としては行き止まりであることを予感させてくれる。案の定、数百メートルも進むことなく、地点でその予感は的中する。自動車がギリギリ方向転換出来る程度の広地で一見林道は終わっているように見えるが、よく見ると藪の中に2方向に分かれている道の痕跡が確認できた。右手は北へ向かっており、このすぐ先にあった「中尾」という集落跡へ伸びている。中尾も角上と同じく昭和30年代までは地図上に地名の表記がある。しかし、無人となった現在は記載されていない。さて、左手のもう一方は西に延びており、こちらのルートが角上へと続く軌道跡と思われる。バイクはここに停めて、歩きに切替だ。
 

   
  
 いつものごとく靴紐を締めなおし地点から歩き出した。夏草の激しい藪はすぐに薄まり、車道サイズの道がしばらく続いた。足元はしっかりしていて歩きやすいが、真夏という季節柄か蜘蛛の巣が非常に多く、小枝を振り回しながらの前進となる。10分ほど進むも森林鉄道の痕跡は現れず、雰囲気的にはただの(車道の)廃道という感じで不安になってきた。しかし、他に間違えるようなところもなかったので前進を続けると…。ついに地点で枕木発見!さらに道幅が今までより狭まり森林鉄道サイズになっている。と、いうことは合流部からこの地点までは軌道跡を林道(車道)転用されていた訳だ。何故こんな中途半端なところまで林道(車道)転用を行ったのだろうかと疑問が生まれた。この件についての考えは後述する。
 
   
 

前回の到達地点を目指せ!

 現在いる地点の風景は、左手に山、右手に谷となり、前回の調査の風景と逆になる。反対側から進んでいるので当然そうなる。しかし!状況は非常に悪い。地質が悪いのか地形が険しい為なのか分からないが、路盤の崩壊が激しい。角上側とはまったく状況が違っており、何箇所もほぼ連続して路盤崩落や土砂崩れが続く。それらを慎重に乗り越えていかなければならない為、神経と体力がガンガンすり減っていく感じだ。そんな状態なのでまともに枕木の上にレールがあるわけもなく、本日レールとの初対面も崖下に転がっているのを上から見つけたという状況だ。
 

  
   
 歩き始めて約1時間が経過したが、地点から800mほどしか進んでいない。崩壊に次ぐ崩壊に嫌気がさしてきた頃に、軌道跡は比較的なだらかな地形の杉林の中へと入っていった。杉林の中は倒木はあるものの、下草もなく日陰で快適だ。また平らな足元で、滑落の恐怖もなくなりホッとしたのも本音だ。地点付近では杉林の中を凹の形に掘って軌道跡が進んでおり、両壁には苔生しているものの丁寧な石組みが残っている。ところで前回の踏査も同じだったが一つ気付いたことがある。不思議なことにゴミが一つも落ちてないのだ。人の痕跡がある場所には、古いジュースやコーヒーの空き缶などが落ちていてもいいものなのだが全く見ていない。本日唯一見つけたのはこの湯飲みだけだ。ま、山でゴミをポイ捨てするような人は、こんな所まで入ってこないか。
  

   
  

初登場!○○橋!

 緩やかな優しい地形も僅かな間だけだった。再び険しい絶壁に強引に取り付けられ、崩壊しかかっている軌道跡になる。木々の間からチラチラと対岸の内大臣林道が見えており、その距離も縮まってきていることから前回(第2回)の調査での到達地点が近いことが予想できる。「ゴールはもうすぐだ」と歩き進むと「ザー」という水の音が聞こえてきた。沢が近づいてきていると思ったと同時に、このような風景が目に入ってきた。
 

   
 
 一見、路盤だけが流されて、レールが宙ぶらりんの状態なのかとも思った。しかし近づいてみると…。長さ5mほどの木造橋だ。しっかりとした石組みの橋台に直径30〜40cmくらいの丸太を3本かけ、その上に枕木とレールを敷いていたようだ。現状は中央の丸太1本が落下しており、枕木も殆どが朽ち落ちている。廃線後にだろう、人が歩けるようレールの間に木を並べて針金で括ってあるが、今やそれまでも朽ちている。一瞬、二本のレールにそれぞれ足を掛けて渡って行けないかな?なんて考えもしたが、落ちたらシャレにもならないので、一旦沢に降りて迂回した。
  

  

宙を行くレール、そして…

 手元のGPSでは前回調査の到達地点が、随分近くであることを示している。が、片方が絶壁で空が見えないこのような谷では、衛星の捕捉が難しくイマイチ精度が安定しない。しかし、とりあえず“近く”ということは分かるので気持ちも高ぶる。ところがその気持ちを打ちのめすかのごとく軌道跡は最悪最強の状態になってきた。とにかく路盤が谷底に落ちているのである。谷底は見えないからどのくらい深いか分からないが、見えている範囲でも何十メートルもある。落ちたら間違いなく死ねる上に、発見もしてもらえそうに無い。山側の崖に僅かに残っている路盤を慎重に進む。しかしレールはなんとも頑丈なものだ。下の写真は路盤崩落した箇所を山側にへばり付いて撮影したものだ。こんな調子でレールが宙を走っている様は、写真で見ると笑ってしまう。もちろん現地では笑える状況ではないが。
   

   
  
 慎重に一歩一歩進んでいくも、地点で遂にこれ以上の前進を断念せざるを得ない状況になった。幅は10mも無いが、山側から大きく路盤が谷底に持っていかれてしまっている。斜面の角度は垂直に感じるほど急なもので、横切ることは出来なかった。GPSで見ると前回の到達点まであと100〜200mといったところだ。残念だがここで引き返す。
 100〜200mと僅かに未踏査区間が残ったものの、分岐点から合流部の間の現状はほぼ解明できたので目的は達成できたと思う。鴨猪谷支線が始まる分岐点からC地点までは崩壊はあるが、森林鉄道として当時そのままの貴重な姿を多く残す区間だということが分かった。またC地点から合流部までは残念ながら林道転用になっていることも分かった。これらのことから様々な考察ができるが、詳細は本報告書の最後にしたい。
 さて、どうにか無事にバイクのところまで戻ってきた。しかし今日の調査はこれで終わらない。鴨猪谷支線の合流部より上流部分を調査だ。穴谷周辺は軌道跡も林道も明確になっていない。今からそこを確認しに行くぞ!
 
 
つづく