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旧深水発電所(旧西日本製紙株式会社) No.02
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調査実施:2005年3月 報告書作成:2005年4月20日
       

 さて、非常に気になる山頂のサージタンクだが、帰宅後にカシミールの1/25000、1/50000地形図で確認してみた。すると結構おもしろい展開になってきた。

 水力発電所は水の力で発電をする。すなわち水が必要な訳で、どこからか水を引いてこなくてはならない。現在の水力発電所はダムの直下にあるものを除いて、ほとんどは遠くの(より標高が高い)水域(上流や他の水系)にダムを作り取水し、導水路を通じて水を引いている。導水路とは水を流す為のトンネルのことで、1/50000程度の地形図や道路地図などを見ると山地の等高線を無視して直線的に走る青い破線で描かれている。道路トンネルと比べると非常に長い距離をトンネルとしているのが特徴で、この導水路が地上に現れると非常に径の大きいパイプが山の斜面を走ることになるのでご覧になったことがある方も多いだろう。

 本題に戻ろう。深水発電所上のサージタンクを1/50000地図で確認すると、予想される地点には何も描かれていない。代わりに青くクネクネと等高線に沿って「水路」が東に延び、走水川の走水滝付近に繋がっているのがわかる。

 更によく見ると水路の途中にはトンネルの記号と不自然な位置に池まであるではないか!現在であれば導水路で一直線といくところだろうが、深水発電所が作られた大正10年では技術的にもそうはいかなかったのだろう。地図を眺めるのが大好きな私でも、このような場所に水路が作られているのは初めて見つけた。しかも、水路がトンネルを2つもくぐっており、さらに人工的な池まで描かれている。
 なにせ素晴らしい煉瓦造りの発電所に付随する関連施設(水路)である。なにか非常に素敵な発見を予感せずにはいられない。これは現地調査に行かなくてはならないだろう。

 まず、調査対象を整理してみよう。水路自体も見る価値があると思うが、やはり一番の目玉は山上の"サージタンク"である。そして地図上で確認できる水路の始まりにある取水口と2つのトンネル、それから池の合計5つを今回調査したい。また関係資料などを調べた結果、発電所の3人以外に取水口に2人、調整池に2人、タンクに2人の従業員がいたとされているので、従業員の詰め所のような建物が残っている可能性もある。それらの痕跡でも発見できれば面白いだろう。
 次に水路へのアプローチと調査ルートを考える。取水口のA地点と、水路途中のB地点には車道が通っているのを地図上で確認できる。水路は取水口から塔まで約4.2km続いているので1日時間が取れれば全体を歩くことが出来ると考えた。水路沿いに道がある保証はないが、現在使用されていないので水も流れていなだろうから水路の底でも歩ければ楽して"サージタンク"まで行けるだろうと、この時は思った。水路なだけにアップダウンもなく楽な往復8km徒歩とのんきに考えたのであった。

事前調査

 まとまった時間がなかなか取れないなか、近くまで行く機会ができたので取水口のA地点と、水路と林道が交差するB地点を確認することができた。
取水口A地点は未舗装の林道沿いに流れる走水川にある。ポイントはGPSに設定していたが、走水滝の上流側すぐのところなので林道を走行中に簡単に見つけることができた。取水堰は石造りとコンクリートで構成されているが土砂が堆積しており、ほとんど砂防ダムのようになっていた。周辺には石垣が作られ上部には建物の基礎らしい痕跡もみられた。ここに建物があって従業員がいたのだろうか?いまいちはっきりとは分からない。肝心の水路も地図上ではある程度走水川の下流方向に向かって平行に走っているはずだが、実際には全く水路の痕跡を見つけることが出来なかった。水路が通っているであろう対岸は切り立った崖だけでなにも確認できない。いきなり挫折か?時間がなくB地点へ向かう。
 B地点は板平という小さな集落から南へ延びる林道の峠付近にある。このポイントも簡単に見つけることができた。このポイントは車道が水路と交差しており、確実に水路本体を見る事ができるのでかなり期待していたが、実際には「水路があったのかな…?」のような痕跡が残っているだけだった。水路はまるで埋め戻されたようになっておりコンクリートなどの水路の遺構は発見できなかった。ただ、地形と植林された杉の間隔の開き具合だけで、その痕跡をみることができた。このとき、100mほどA地点の方角へ水路(と思われる痕跡)上を歩いてみたが倒木と藪が激しく、すぐに引き返してしまった。この日はこれで調査終了。本調査にあたってはかなり楽観的に考えていたが、計画を練り直したほうがいいようである。